2025/10/19 18:00

1年を通して、誕生石にはそれぞれの歴史や伝承されてきた物語があります。色や光の特徴や背景にある歴史を知ることで、きっと、あなたの誕生石が少し特別に感じられるはず。誕生石に興味を持たれて、お守りとしてお迎えして大事にされている方もいらっしゃるかもしれません。
もう一つ誕生石の楽しみ方としては、その月の誕生石を身に着けて幸運を願うというのがあります。毎月違う石でお洒落を楽しめて気持ちも変わるので、個人的にはそのような楽しみ方の方がとても好きなのです。日本の誕生石リストが2021年に改訂されて全部で27石になりました。さあ、1月から12月まで、宝石たちの世界を旅してみましょう。

January – ガーネット
Garnet|柘榴石(ざくろいし)
宝石言葉:友愛・忠実・真実・生命力
深い赤が印象的なガーネットは、まるで熟したザクロのよう。色のバリエーションが豊かで紫がかったロードライトガーネット、燃えるようなオレンジのスペサルタイト(マンダリンガーネット)など、多彩な温かい輝きを持つ石です。同じ「ガーネット」という名でもそれぞれ別の鉱物であり、異なる個性を放ちます。グリーンガーネットにTiffany社が命名したツァボライトと、強い分散光が見えるデマントイド・ガーネットがあります。
February – アメジストとクリソベリルキャッツアイ
Amethyst|紫水晶
宝石言葉:誠実・心の平和・調和
古代ギリシャでは「酔わないお守り」と信じられたアメジスト。鮮やかで深い色味の紫は心を落ち着かせ、精神のバランスを整えるといわれています。バイカラーの宝石の人気の昨今、アメジストとシトリンが一つの結晶に共存する「アメトリン」は、まるで昼と夜が出会う瞬間のような美しさ。歴史も古く身近に感じられる宝石の一つであり、日本では1千年ほど前には水晶を採掘していました。特に江戸時代以降に山梨県で上質な水晶が採掘され、日本の国の宝石は真珠ではなく水晶とされる説もあります。
Chrysoberyl Cat’s Eye|猫目石
宝石言葉:守護 慈愛 驚嘆の美
クリソベリルキャッツアイは2021年に誕生石に加わった新顔。光を当てると縦に一条の光が走るシャトヤンシー効果は、まるで猫の瞳のよう。採掘地でもあるスリランカではこの光筋の美しさを「ハニー・カラー」と呼び、絹のように動く光を愛でます。静かな中に強さを秘めた宝石で、メンズリングなどにも好まれます。光を当てると縦に一条の線が出るシャトヤンシー効果(キャッツアイ効果)は、内部に平行に存在するシルクのようなインクルージョンが光を反射して出現します。
March – アクアマリン、コーラル、ブラッドストーン、アイオライト
Aquamarine|藍玉(らんぎょく)
宝石言葉:沈着・勇敢・聡明
ラテン語の「海の水(アクアマリン)」の名の通り、澄みきった海のようなブルー。透明なファセットカット石は凛とした印象を、半透明のカボションカットの「ミルキーアクア」は柔らかな印象を与えます。アクアマリンは採掘された時に綺麗なブルーのものはそのまま研磨され、淡い色や茶色がかったものは加熱によって綺麗なブルーに変化させます。これは後戻りすることはなく、内部の変化を見ることはできません。地球がやり残した作業を地上で人の手が代わって仕上げています。
Coral|珊瑚
宝石言葉:幸福・長寿・成長
海から生まれる生命の宝石。真珠と違うのは養殖が出来ないという点。コーラルの色は赤さんご、もも、ピンクコーラル(和名:ボケ、英名:エンジェルスキン)、白珊瑚があります。エンジェルスキンという名前はとても少女らしいイメージですね。
Bloodstone|血石
宝石言葉:勇気・勇敢・聡明
深緑に赤の斑点が浮かぶ神秘的な石。古代では勇気を象徴し、戦士たちのお守りだったといわれます。よく見かける丸い珠や連以外に、イギリスなどのアンティークジュエリーに時折見かける印章のジュエリーなどは趣があります。
Iolite|菫青石
宝石言葉:誠実・徳望・指針・先導
見る角度で青や紫に変わる多色性が魅力。アイオライトの名前は紫を意味するギリシャ語のIosに由来します。透明石で水を湛えたような印象から、古くからウォーターサファイアと呼ばれています。結婚21周年を記念する宝石でもあります。
April – ダイヤモンドとモルガナイト
Diamond|金剛石
宝石言葉:永遠・純潔・不屈
「征服されざるもの」──ギリシャ語 Adamas(アダマス) に由来する名を持つ、王者の宝石。どんな宝石より硬くて輝きます。硬さと透明な輝きは永遠の象徴。近年はスライスダイヤモンドやアンカットダイヤモンドなど、プリミティブな魅力を生かしたスタイルも注目されています。無色以外にピンクやオレンジ、グリーンなど可愛くて魅力的な色相なものまで様々です。
Morganite|モルガン石
宝石言葉:愛情・優美・自立
優しいピンクの透明度の高い石で、愛情と自立の象徴として現代女性にも人気です。Tiffany社が、銀行家で宝石愛好家であったジョン・モルガンにちなんで命名しました。エメラルドやアクアマリンと同じ鉱物ベリルの仲間です。ブラジル、ミナスジェライス州などで採掘され、大きな結晶もあります。
May – エメラルド
Emerald | 翠玉(すいぎょく)
宝石言葉:幸運・明晰・満足
エメラルドは、アクアマリンと同じベリルという鉱物種のうち緑色のものをいいます。古代ローマの博物誌「Natural History(博物誌)」 (紀元79年ごろ)などの書物にも登場していました。内包物がまるで美しい庭園のように見えることから「Jardin / ジャルダン(庭)」と呼ばれる美しいグリーンの宝石です。内包物の無いエメラルドを探すのは不可能で、石を覗くと固体、気体、液体など様々なインクルージョンを見ることができます。
コロンビア産、ブラジル産など産地による色味に特徴があります。
June – パール、ムーンストーン、アレキサンドライト
Pearl|真珠
宝石言葉:純粋・富・無垢
磨かずとも生まれながらに輝く、奇跡のような宝石。フェルメールの絵画「真珠の耳飾りの少女」に描かれたように、光を宿すその姿は永遠の優雅さを語ります。パールは虹色に輝く光彩が珠の中に映り込み、どのような人種の肌色も高貴に美しく見せることのできる最高の宝石です。古代ギリシャでは、真珠は愛の女神アフロディテの象徴でもありました。
Moonstone|月長石(げっちょうせき)
宝石言葉:幸福・健康・長寿・富
青白い光がゆらめくムーンストーンは、月の魔法を閉じ込めたよう。カボションカットに施されることで、美しいオーロラのような幻想的なシラー(内部の層状構造によって光の反射と錯乱が発生し、石の表面に現れるブルーやホワイトなどの強い光)が際立ちます。
Alexandrite|金緑石(きんりょくせき)
宝石言葉:高貴・誕生・光栄
アレキサンドライトは自然光では青紫色、ろうそくや蛍光灯ではワインレッド──まるで昼と夜を映すように変化する不思議な宝石。ロシアのウラル山脈のエメラルド鉱山で発見され、当時のロシア皇帝アレクサンドル2世の名を冠した高貴な宝石です。アレキサンドライトは鉱物クリソベリルに属する宝石で、カラーチェンジするものをアレキサンドライト、キャッツアイ効果を見せるものをキャッツアイと呼んでいます。
July – ルビー
Ruby|紅玉
宝石言葉:熱情・仁愛・純愛 ・威厳・優雅・勇気
「宝石の女王」とも呼ばれ、赤い石の代表格のルビー。燃えるような赤は愛と力の象徴です。産地として有名なミャンマー・モゴックのルビーは今も世界中の宝石商を魅了します。ルビーは元々持っている色を更に引き出すために、昔から加熱処理が行われてきました。中には稀に非加熱のままでも美しいルビーが採れることもあり、愛好家たちの間で注目が集まり大変高価になります。
August – ペリドット、サードオニックス、スピネル
Peridot|橄欖石(かんらんせき)
宝石言葉:夫婦の幸福・和合
日の光の中で輝くような明るいグリーンが特徴の宝石。原石は平和の象徴でもあるオリーブの実に近い緑で産出することから、鉱物種名はオリビン(語源はラテン語のオリーブ)です。劈開といってある方向にパッと開くように割れる性質がややあるので、リングで持つならファセットカットされたものよりも、カボションカットのつるんとした石の方がおすすめです。
Sardonyx|紅縞瑪瑙(べにしまめのう)
宝石言葉:知恵・勝利・幸福
赤と白の層が織りなす模様が美しく、古くから印章やカメオ彫刻に使われてきました。夏の夕日を思わせる赤色~朱色・褐色をベースに白色の層が織りなす模様が美しく、「サードニクス」「サードオニキス」「サードニックス」ともいわれます。古来より紋章・印章・シグネットリングなどにするのに使われ、層によって様々に現れる縞模様の美しさがカメオ彫刻の材料としても重宝されます。
Spinel|尖晶石(せんしょうせき)
宝石言葉:成功・情熱・好奇心・挑戦
スピネルは2021年に誕生石のリスト入りを果たし、今注目の石です。ダイヤモンドの結晶と同じ八面体の結晶で産出されることがあります。これが小さなトゲを思わせることから、ラテン語のトゲを意味するSpina(スピナ)が語源になっています。スピネルは実に様々な色を産出し、オレンジ・レッド・パープル・ブルー・グリーン、黒や無色などがあります。特にレッドスピネルは歴史的に長い間ルビーと区別されなかった赤い宝石。イギリス王家が所有する黒太子のルビーと言われる宝石は、実は140ctの巨大なスピネルです。エリザベス女王の国葬の際に棺の上に置かれた大英帝国王冠に、ダイヤモンドカリナンⅡの上に据えられています。
September – サファイアとクンツァイト
Sapphire|蒼玉(せいぎょく)
宝石言葉:誠実・成功・慈愛
深い青は心を鎮め、真実を照らす光。歴史上の王族や君主の冠や指輪などを飾ってきたことも多く、王室とゆかりのある宝石です。サファイアは、青を意味するラテン語の「サッピールス(sapphirus)」に由来します。
Kunzite|リチア輝石(りちあきせき)
宝石言葉:無償の愛・可憐・純粋
Tiffanyの宝石学者ジョージ・クンツ博士の名を冠する淡いライラックカラーの石。可憐で、どこか儚い光が見る人の心を静かに包みます。鉱山のある地名に因んでカリフォルニア・アイリスという愛称もあります。
October – オパールとトルマリン
Opal|蛋白石(たんぱくせき)
宝石言葉:幸運・歓喜・希望・無邪気
虹を閉じ込めたような遊色効果が魅力。角度を変えるたびに異なる光が踊り出す──まるで心の中の希望そのものです。オパールは、貴石を意味するラテン語のオパルス(Opalus)に由来します。遊色効果を発するプレシャスオパールといい、発しない一般オパール(コモンオパール)といいます。
Tourmaline|電気石
宝石言葉:希望・友情・潔白
トルマリンの名前の由来はスリランカの言葉で、宝石の砂礫を意味するトルマリ(Turmali)からきています。結晶に含まれる元素の微妙な違いにより、ピンクやグリーンなど多彩な色が産出します。一つの結晶にピンクとグリーンなど2色以上が見られる「バイカラートルマリン」、スイカの輪切りのように見える「ウォーターメロントルマリン」などもあります。自然が生み出したユニークな宝石です。自然が描いたグラデーションは見ているだけで心が弾みます。
November – トパーズとシトリン
Topaz|黄玉
宝石言葉:成功・希望・誠実・友情
ピンクやオレンジに輝くインペリアルトパーズは、まさに夕日のような温もりを感じさせます。トパーズはカラーレス、ブルーなどいろんな色が産出しますが、中でもピンク系が希少です。シェリー酒のような色合いのオレンジがかったインペリアルトパーズや、淡い赤紫のような色あいで、ファンシーピンクダイヤモンドに似た色をしているピンクトパーズがあります。
Citrine|黄水晶
宝石言葉:繁栄・成功・富・幸福・希望
シトリンの語源はフランス語でレモンを表すシトロン(Citron)です。水晶系の宝石で天然のままで黄色いものは産出が限られていて、特定の鉱床のアメジストを加熱して鮮やかな黄色に変化させています。一旦変化した色は元に戻ることはありません。
December – トルコ石、ラピスラズリ、タンザナイト、ジルコン
Turquoise|トルコ石
宝石言葉:健康・旅の安全
スカイブルーのトルコ石は古代から旅人を守るお守りとして愛されてきました。身代わりに割れてくれるという言い伝えもあります。採掘されるのは地球の限られた場所、乾いた不毛の大地。今も昔もイランのペルシャ産のトルコ石は美しいターコイズブルーのジェムクオリティのものがあり、大切にされています。米国・ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州などのアメリカ先住民によって1000年近く採掘されてきました。トルコ石と呼ばれる前は、美しい石という意味のカレースと呼ばれていました。
Lapis Lazuli|青金石・瑠璃
宝石言葉:成功の保証・真実・健康・幸運
ラピスラズリは夜空のような青に金の星屑(パイライト)が瞬く――まさに宇宙を閉じ込めた石。古代エジプトの王たちが身につけた、神聖な青です。アフガニスタンの山脈などから産出する、鮮やかなロイヤルブルーが目を引く岩石です。メソポタミア、エジプト、中国、ギリシャ、ローマの古代文明で装身具として珍重されました。Tanzanite|灰簾石(かいれんせき)
宝石言葉:神秘・冷静・誇り高い
夕暮れの空のように、青と紫がゆらめくタンザナイトは、タンザニアでしか採れない奇跡の青い宝石。ゾイサイトという鉱物種で、Tiffany社によってタンザナイトと命名されました。茶色いゾイサイトを加熱すると青いタンザナイトになります。
Zircon|風信子石(ひやしんすせき)
宝石言葉:穏やかな人間関係・平和
ダイヤに似た強い輝きを持つジルコンは、平和と調和の象徴。ジルコンは、アラビア語の朱色を意味するジャグーン(Jargon)が語源になっています。様々な色が産出しますがブラウンでの産出が多いからだったのでしょうか。無色のジルコンはブリリアントカットにすると、高い屈折率のためファセットの稜線が二重に見えます。
あとがき
誕生石の起源についてどうなってるの?という疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。諸説様々なのですが、旧約聖書の「出エジプト記」や新約聖書のヨハネの黙示録21章にそれらしきものを見ることができます。また歴史上、新たな宝石の発見を幾度も経て、多分に商業活動に根差して今日の誕生石リストが出来上がっているのです。国によっても違いがありますし、バリエーションが多いということは選び方も自由に、楽しみも広がっていくことでしょう。
12の月のそれぞれの宝石、異なる色、輝き、そして物語。誕生石は「自分を映す鏡」のような存在かもしれません。あなたの石が、今のあなたに何を語りかけるのか──ぜひ手に取って、その輝きと会話してみてください。
出典:日本ジュエリー協会、GIA EDUCATION他